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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)516号 判決

控訴人 倉田義則

右訴訟代理人弁護士 千葉昭雄

被控訴人 東京食品信用組合

右代表者代表理事 外口茂三郎

右訴訟代理人弁護士 鈴木誠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し一〇〇万九四九三円及びうち一〇〇万円に対する昭和四八年五月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、その認否は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

本件定期預金は、訴外青木絹江が被控訴人から融資を受けるにつき、控訴人がこれに協力して架空名義で預金した一〇口の預金の一部であって、被控訴人が控訴人に無断で本件定期預金を担保に右訴外人に融資したとしても、控訴人の右預金返還請求権に消長を来すものではなく、また同訴外人に対する被控訴人の貸金債権をもって相殺することもできない。

(被控訴人の主張)

本件定期預金は、訴外青木絹江が被控訴人から融資を受けるためにした同訴外人の預金であって、控訴人の預金ではない。

(証拠)≪省略≫

理由

一、まず、控訴人は、被控訴人に対し昭和四八年二月八日青木きぬという名義で一〇〇万円を預金したと主張する。そして、≪証拠省略≫によれば、控訴人は昭和四八年二月八日預入れ、同年五月八日満期の青木きぬ名義の金額五〇万円の被控訴人作成の定期預金証書二通及び右二通の定期預金証書表示の二口の定期預金の申込書に押捺された「青木」の印鑑を所持しており、また、右二口の定期預金の申込書に記載された住所は控訴人の事務所であり、電話番号も控訴人方の電話番号であることが認められ、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中には控訴人の前記主張に沿う部分がある。しかしながら、右控訴人本人尋問の結果は後記認定の事実に照らしたやすく措信できず、右認定の事実から直ちに控訴人と被控訴人との間に預金契約が成立したと認めることもできないし、他に控訴人の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

二、かえって、≪証拠省略≫を綜合すると、被控訴人の職員である訴外城戸政義は、昭和四八年二月八日かねて取引のあった訴外林田繁の紹介で被控訴人本店事務所を訪れた訴外青木絹江から飲食店を開業するについて融資を受けたいとの申入れを受けたが、同訴外人とは従前全く取引がなかったので、預金のない者に対する貸付は出来ないから、先ず預金取引を始めるようにと勧めたところ、同訴外人は五〇〇万円を三ヶ月の定期預金にしたいと申出たので、訴外城戸はこれに応ずることとし、訴外青木に定期預金申込書用紙を交付したこと、すると同訴外人は同道して来店していた控訴人にこれを手渡し、控訴人においてこれにいずれも一口五〇万円とし、青木きぬ子名義五口、青木絹名義三口、青木きぬ名義二口に分けて定期預金申込に必要な事項を記載し(なお、その際控訴人は後記のとおり実際に五〇〇万円を用意したのは控訴人であったので預金申込者の住所欄に自己の事務所を記入し、電話番号欄にも自己の電話番号を記入した)、「青木」の印鑑を押捺して訴外城戸に提出し、所持していた現金五〇〇万円を訴外青木に渡し、同訴外人はこれを訴外城戸に交付したものであること、本件預金は右一〇口の申込書のうち青木きぬ名義の二口に対応する預金であること、右預金の際訴外城戸との応待はもっぱら訴外青木がしたものであること、なお、控訴人と訴外青木との間では、前記五〇〇万円の現金は控訴人が用意したものであるから、訴外青木が預金相当額の金員を控訴人に支払うまでは右五〇〇万円の預金は控訴人のものとし、控訴人において預金証書及び印鑑を保管し、訴外青木は控訴人に右五〇〇万円につき三ヶ月分として五分の割合の金員を支払う旨の合意がなされていたものであること、訴外青木はその後控訴人に対し四〇〇万円の現金を支払って控訴人から前記五〇〇万円の預金のうち青木きぬ名義の二口を除く八口の預金証書と印鑑を受領し、被控訴人との間では前記五〇〇万円の預金を担保とする合意のもとに被控訴人から二回にわたり合計五〇〇万円の貸付けを受けたものであることなどの事実が認められ、右認定の事実によれば、控訴人と訴外青木との間の内部関係はともかく、被控訴人に対し本件預金をしたのは訴外青木であると認められる。≪証拠判断省略≫

三、したがって、控訴人が被控訴人に対し定期預金をしたことを前提とする控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 海老塚和衛 小田原満知子)

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